長崎旅行2日目のきょう(またまた疲れて寝てしまったので、1日遅れのアップになってしまったけれど)は、唐人屋敷跡巡りからスタートした。泊まっている新地中華街ど真ん中のホテルから、鎖国の時代に華僑の人たちが集まって暮らしていた一角へは歩いて10分ほど。このエリアに残っている唐人の生活跡を見てまわった。
長崎市館内町にある、150メートル四方程度のこの一角は、鎖国時代には出島とともに、海外に唯一(じゃないか、唯二?)開かれていた窓口だった。
坂道に張り付いた“斜面都市”で、迷路のような細い辻、曲がりくねった道が続く。そんな中に、今もなお、当時のままの唐人建築が残されている。
主な唐人建築は、土神堂、福建会館、観音堂(写真上)、天后堂(写真下)の4カ所。いずれも、日本の様式を巧みに取り込んだ建築方法だ。建物の前に蘇鉄が植えられているところなど、いかにも南国・九州らしい。
重要な貿易の相手である中国の人たちを、こんな一角に集めておかなくてはならなかったというのは、やはり当時、鎖国という体制が敷かれていたという特殊な事情があったのだろう。そんな事情がこういった唐人屋敷群を生み、現代まで残っているのだから、不思議なものだ。
エリアを隅々まで歩き回っていたら、あっという間に1時間半が過ぎた。きょうも寝坊したから、もう正午をはるかに回っている。昼ご飯をたべなくっちゃ。
ホテルの近くに戻って、新地中華街に向かった。平日だというのに、夏休みの観光客でずいぶんにぎわっている(私もその1人だけれど)。
ぶらぶらと歩き回って、いちばん客が入っていた「江山楼(こうざんろう)」へ。目標は、長崎に来たら絶対に食べて帰ろうと思っていた「ちゃんぽん」だ。
この店では、「並ちゃんぽん」(700円)、「上ちゃんぽん」(1000円)、「特上ちゃんぽん」(1500円)の3種類があった。まわりの人の様子を見ていたら、ちゃんぽんを頼む人は、大半が特上を頼んでいるようなので、私もそれに従ってみた。
5分ほど待って、テーブルに届けられた特上ちゃんぽんは、見るからに豪華! なんと、てっぺんには小振りなフカヒレ姿煮が2つ乗っかっているぞ。
スープはオーソドックスな白濁タイプ。なんでも、アサリを加えてだしを取っているらしい。あっさりしていながら、旨みはたっぷりという感じだ。
具は20種類も入っているそうで、ウズラの玉子、白菜、もやし、かまぼこ、豚肉、アサリ、海老、ちくわなど、ごく普通のもののほかに、前述のフカヒレや、肉団子、魚のすり身団子、牛のモツ、しめじなど、ずいぶんいろいろと楽しめた。これらから出るおいしいエキスがスープに溶け込み、ますます味わいが深くなる。
これに、絶妙のゆで具合の麺がよく合う。ちゃんぽんの麺って、やわらかくゆですぎて表面がぬるっとした感じになりがちなんだけれど、ここんちのは腰砕けになっていないから、それが少ない。でも、スープはとてもよくからむし、麺は丼から浮き上がっていない。つまり、バランスが実にいいのだ。
正直、ちゃんぽんにはあんまり期待していなかったんだけれど、結果としては、「こんなにうまいちゃんぽんがあったんかいぃ~っ!」(宮下あきら調)と感動してしまった。これほどまでにおいしいちゃんぽん、初めて食べました。江山楼さんに脱帽です。
お腹がふくれたら、腹ごなしにもうちょっと歩こう。今度は「出島オランダ商館跡」だ。
やはり鎖国当時、重要な貿易相手国だったオランダの商館が、寛永13年(1636)に作られた扇形の小さな人工島、「出島」に移転させられた。以後、オランダ商人たちは、このわずか70メートル×200メートルしかない小さな島に閉じこめられることになる。華僑の唐人屋敷群と、まったく同じ構図だ。
現在の出島は、周囲の埋め立てが進んだため、完全に陸続きとなっている。そのため“島”という雰囲気は失われたけれど、長崎市による復活の取り組みが進んだことにより、今では敷地内に10棟程度を再現。往時の家並みを彷彿とさせるたたずまいを取り戻した。
いちばんおもしろかったのは、カピタン(商館長)の屋敷跡。出島内でもっとも偉い人だから、住んでいた屋敷もかなり広くて立派だ。これは、各施設に共通することだけれど、和洋折衷の建築様式が「なるほどねえ…」って感じだし、壁紙代わりの、和紙にパターンプリントを施した「唐紙」も、「オランダの人たちは、こういうのを取り入れることで日本になじもうとしたのかな」なんて考えさせられる。
カピタン屋敷の2階にある食堂には、商館に勤める人たちが毎日昼と夜に集まって食事をしていたらしい。施設内では、クリスマスのときのメニューが再現されていて、ブタの頭部のローストや、塩漬け牛肉、マダイのバターソテーなど、豪華な品々が並んでいた。
異国の地で暮らす人たちにとって、こういうところでストレスを発散しないとたまらなかったんだろうなとも思う。なにしろ、最高責任者であるカピタンの苦労は並大抵ではなかったらしい。
オランダ人にとって、日本は最高のお得意様だ。だから、出島みたいな狭いところに押し込められても文句は言えなかった。
お得意様は、常にご機嫌を取り結んでおく必要がある。だから、西欧の珍しい食物や織物、機械などを、将軍を頂点とした各方面に贈らなくてはいけないし、地元の役人には、ワインなどの付け届けもしなくてはならない。カピタン屋敷に置かれていた解説パネルには、「カピタンの苦悩」なんてタイトルで、ここらへんの事情が説明されていた。
出島に到着したのは午後2時ぐらいだったのだけれど、端から端まで余すことなく見学していたら、いつの間にか午後5時を過ぎ、閉館の時間になってしまった。どうも、興味を持って見始めると時間を忘れてしまう。
もう1カ所ぐらい、まわってきたいな~。さあて、どうしよう。見学時間が設定されている施設はもうだめだから…。よ~し、1634年に架けられた日本最古の石造2連アーチ橋、「眼鏡橋」を見に行こう。出島からなら、路面電車を乗り継いで10分ほどだ。
路面電車の賑橋駅から、歩くこと約3分。中島川のほとりにやってくると、おお、あった、あった!
いかにも古そうな石で造られた、2つのアーチからなる眼鏡橋が見えてきた。川面に反射して、確かに眼鏡のように見えるぞ。
石積みのたたずまいが、静かな中島川の景色に、どっしりと落ち着いて溶け込んでいる。
積まれた石のひとつひとつは、風雨にさらされて少しずつ形を変えながら、いったいどんな風に歴史を眺めてきたのだろう。なにせ、出来上がってから400年近くたっているのだ。
岸辺を散歩していたら、ずいぶんいろいろな生きものがいた。ハゼ、川エビ、ボラ、コイ、手長エビ。水に手を突っ込んでみたら、簡単に手長エビを捕まえることができた。もちろん、すぐに水へ戻したけれど。
この中島川というのは、宿をとっている新地中華街も流れていて、その周辺では、40~50センチぐらいの大きなボラが群れをなして泳いでいる。10~20センチほどのフグもたくさんいる。
透明度はなかなか高く、岸辺にはカニやフナムシがいっぱい。魚種もなかなか豊富で、人間の生活環境に近いわりに、豊かな生態系を保った川だ。首都圏で、こんな川にお目にかかるのは難しい。
水面をのぞき込みながら散策していたら、いつのまにかもう午後6時半。そろそろ宿へ帰ろう。路面電車で新地中華街に戻り、いったんホテルの部屋へ。2日目の晩は、何を食べようかな。
しばらく思案しているうち、長崎といえば、吉宗(よっそう)の本店があるところだったと思い出した。吉宗は茶碗蒸しと蒸し寿司の専門店で、東京・銀座にも支店がある。豚の角煮もうまかったはずだ。本店は、ホテルから歩いて5分ほどの場所にある。
こりゃあ、行ってみなくちゃしょうがないだろう。てくてく歩いて、吉宗の本店前に着いた。おお、なかなか立派な構えだな。ちょっと入りづらいかも。銀座の店に行ったときは、高級感が漂いまくりだったからな~。本店だったらいったいどんなことになるのか。。。
ま、いいや。行っちゃえ。「すみませ~ん、入れますかぁ?」。
下足番のおじさんが、にこにこしながら「いらっしゃいませ!」と出迎えてくれた。「椅子でよろしければ1階、お座敷なら2階になりますが」とおじさん。椅子の方がいいや。座敷だと、あぐらをかいても腹がつかえて後ろに転がっちゃうんだ。即座に「1階でお願いします」と答え、席に案内してもらった。
入ってみると、銀座の高級っぽい雰囲気と違って、ごく普通の気軽な飯屋といった感じでちょっと安心。さっそくメニューを見ると、お刺身や小鉢つきのセットメニューがいくつかあったけれど、ここは、シンプルに茶碗蒸しと蒸し寿司を注文しよう。この2つは、それぞれ別に頼むこともできるけれど、両方いっぺんに頼むと「御一人前」というメニューになる。
注文を取りにきた仲居さんに、「御一人前ください」と告げると、「茶碗蒸しも蒸し寿司も、ご注文いただいてから蒸し始めますので、15分ほどお待ちいただきますが、よろしいですか?」と聞かれた。
はいはい、もちろん大丈夫ですよ。作り置きなんかしていない証拠なんだから。ただ、15分間ぼ~っとしているのもつらいから、枝豆を頼んでビールを飲みながら待つ。
ゆるゆる待っているうちに、御一人前が到着した。おんなじサイズのかわいい丼が2つ。茶碗蒸しが入っている方のふたには、茶色の字で「茶碗蒸し」と書かれている。蒸したてだから、両方ともあっつあつだ。
さめないうちに、さっそくいただこう。まずは茶碗蒸しから。ふたをとると、透明に近い色のだしと、淡いクリーム色の玉子がぷるんと揺れる。けっこうやわらかそうだ。
だしの香りがふわぁっと立ち上る。カツオが強めの香りだな。あと、少し芳ばしい感じもするので、焼きアゴ(トビウオ)なんかも入っているかもしれない。
さあて、黄色いぷるぷるをれんげですくってひと口。おっ、見た目とは逆に、わりとしっかり濃いめに味がついている。昆布だしもずいぶん利いているな。玉子がとってもいい香りだ。
具は、かまぼこ、椎茸、麩、焼き穴子、鶏肉、きくらけ、銀杏、筍など、ずいぶんたくさん入っている。芳ばしい香りの秘密は、この焼き穴子だったのだな。
こういうほんわかした玉子料理を食べていると、幸せな気分になってくる。気持ちがふわ~っとゆるんだところで、今度は蒸し寿司だ。
丼のふたを開けてみると、錦糸玉子の黄色、焼き穴子のほぐし身の茶色、桜でんぶのピンク色がとってもきれい。その下は、甘めの味つけで、うっすらと酢を利かせたふっくらご飯だ。酢飯を蒸してしまうなんて、おもしろいな~。
錦糸玉子はしっとりと焼き上げられていて、食感も楽しい。ふわふわとした桜でんぶは、甘い「口代わり」といったところ。圧巻は、焼き穴子のほぐし身だ。丁寧に焼いた穴子の身をほぐし、芳ばしさを損なわないように味を含めてある。う~、箸が進む、進む!
茶碗蒸しは汁代わりにもなるし、2つの丼の具を合わせたら、野菜もタンパク質も十分。両方一緒に食べることによって、完全な組み合わせとなるのだな。食べ終わってからお店の人に話を聞いてみたら、「うちの茶碗蒸しは、蒸し寿司と一緒に食べる前提で作っているんです。だから、少し塩気が強い。これは、甘い蒸し寿司に合わせるための味つけなんですよ」と教えてくれた。
すっかりお腹がいっぱいになったので、あとはホテルでひと休み。ああ、きょうもよく歩いたし、よく食べた。あしたは長崎の最終日。どんなものと出会えるかな。
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